クリスタル事件

試練というものは忙しく気持ちの余裕もあまりない時に突然襲って来るもので。
来週、ドイツの某大手顧客との契約調印式に赴くという専務。
まず、そんなスケジュールを聞いたのが月曜日。私は大手顧客の担当でもないので、当たり前といえば当たり前なのですが、欧州担当と言えば欧州担当。まぁ、それはさておき、ここで油断があったのは確か。
専務から「調印式ってことは、やっぱ何か記念品とか贈答するよな」と聞かれたので、ちょうど出張に来ていた欧州の方々と相談。まずはドイツの販社社長に確認していただくことに。
そして返ってきた回答は「何年か契約が経過して、更新した際に感謝の意味を込めて贈り物をすることはあるが、普通はしない。あればあるでいいけど」というもの。ここで気を抜いたのが不幸の始まり。「なくても大丈夫そう」「そもそも1週間以内で準備が難しい」と気合いを抜いてしまったのです。
そして、ようやく木曜日に専務に会うチャンスがあったので、報告を入れておこうと、「さすがに1週間という短納期では対応できる業者はなさそうです」と話しかけたところ、何故か専務のエンジンに火がともってしまったのです。
「そんなことないだろ」
あまりに気軽におっしゃられる厳しいお言葉。しかし、油断大敵という言葉を思い出した瞬間でもありました。
実は今回の指令とは、「 クリスタルか金属のプレートの贈答品に簡単なメッセージと両者の名前を彫り込む」というもの。そんなこと3日やそこらでできるものではないと何人からかアドバイスももらっていたので、こちらに勝ち目があると思い込んでいました。
すると、アメリカでもらったという、専務自慢のその手の贈答品を部屋から持ち出してきて、「ほら、こういうのだよ。」とプレッシャー。いや、そういうものだということは理解しているのですが。。。
おどおどしていると、欧州の皆様がヘルプに来てくださいました。
「専務、ドイツではそういった贈答品は一般的ではないとのことですが...」とあきらめさせようとすると、
「あン?普通、やるだろ。調印式なんだから」と一蹴。
ドイツ人が「一般的でない」と言っているのに、「普通、やるだろ」って。やはり、この人の中ではドイツよりアメリカの方がでかく、そして世界の中心なんだろうとあらためて察しました。
そして、もう一発。
「いやぁ、欧州でもこういったものの手配は1週間以上はかかるものですよ」とフォローを入れてくださったところ、
「まぁ、そうかな。でも、日本なら一日でできるだろ!」
と、テニスで言えば、強烈な逆クロスのようなメッセージが返ってきました。
そんなわけで、木曜19時前に、1日以内でクリスタルにネーム入れをして準備すること、と再指令がでたのです。
こんなの軽いイジメに相当します。ほとんど半泣きになりました。
周囲の温かいヘルプに頼りながら、木曜日はひたすらネットで検索。デパート系も電話しましたが、サービス自体なかったり、2週間以上かかるとか、ありきたりな回答が普通。隣の先輩などは、電話をかけた業者からなぜ時間がかかるかをやたらと説明されてしまったとか。つまり、こういうものは版下を作成して、検品して、それから職人が彫り込むのだとか。
それならばと、女の子が教えてくれたその場で彫り込んでくれるサービスは、これは盲点でした。ディズニーランド!お城の下のショップでガラスにネームなどを彫り込んでくれるのだとか。ならば、そこにクリスタルを持ち込んで彫り込んでもらうというのも一つの手段。
それにしても、ネットで検索すると神戸やら旭川やら広島やら全国の業者が出てきてしまうので、何なら出張も辞さない覚悟すらわきあがってしまいましたね。そんなこんなで木曜は終わっていったのでした。


そして迎えた金曜日。朝からコールしたら、即日対応してくれるという業者を発掘してしまいました。
なんで見つかってしまうのか。。。嬉しいような悔しいような複雑な気分。
まずはネットから商品リストを印刷して、たまたま急用で銀座に来ていた専務に選ばせようと見せにいったら、軽く一言。
「やっぱこういうものはパートナーシップの象徴だから、2本作ろう」
な、なぜ、あなたはそこまで軽く言えるのか。。。いや、そういう人だから偉くなれるのか。劇的BeforeAfterの「なんということでしょう」のナレーションがDJリミックスバージョンでリフレインされたのは言うまでもありません。
とにかく業者には即行で在庫確認していただき、手配。夕方にピックに行くことに。
そして行ってきました。場所は小岩から徒歩15分の下町。住宅地の中にある小さな工房。フォントも選べない状況ながら、とりあえず完成。大企業らしからず、その場で現金払い。東京にいるのに立て替え払いが2日で10万円を超えたのは初めてです。
そして欧州出張者に持ち帰っていただくべく品川の高輪プリンスへ直行。一つをフロントに預けて、もう一つを専務の展示用に銀座に持ち帰って、報告を入れてようやく任務完了!
と、思ったら。
専務から、「せっかく作ったんだから、こういうものはドイツ販社とかロンドンとかオランダにも置こう!」と意気揚々のコメントが会議で出たらしく、みんなでドン引きしたらしいものの抵抗はできず、とりあえずドイツには2本持っていくことになったのだとか。

そんなわけで、もう一本のクリスタルを届けるべく、高輪プリンスへ。と、その前に記念撮影。なんか権威をおとしめたくなって、生茶のペットボトルに並べてみました。ちなみに重さは1kgほど。
そうして、もう一度高輪プリンスへ届けて、本当に任務完了。
いや、でも、少なくともあと1本は作らないといけないんだよな。。。と思うと、まだすっきりしない。。。
こうして、またここの仕事での免疫力がアップしたのでありました。